ブルーピリオド9巻の感想と解説!美大生が深掘りしてみた

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ブルーピリオドの9巻が発売されたので、美大生目線で感想を書いていきたいと思います。

もう読んだ人は漫画の深掘りとして、一応まだ読んでない人も予習として楽しめるようにまとめましたので、ぜひ読んでいただけると幸いです。

ただ、話の流れは書いていないので、先に読んだ方が理解できます。

amazon kindleの電子書籍ならすぐに読むことができるのでオススメ。

ブルーピリオド9巻の見どころ

・現代アートと古典絵画の違い

・世田介くんと猫屋敷さんの対立

・今どきのアーティストを象徴する猫屋敷教授

・得意なこととすきなこと

・アーティストと承認欲求

今回の9巻では古典絵画の気質をもつ世田介くんと、現代アートの気質を持つ猫屋敷さんの対立をメインに描かれています。

それぞれが作品が自分にとってどういうものかが如実に描かれた回に。

八虎はそれぞれと関わりながら第三者視点として見て、少しずつ美大生として成長する回になっています。

現代アートと古典絵画のズレ

7,8巻でアートのコンセプトって何?というところから進んで、今回の9巻は逆に見たままを描いた作品はアートなの?という八虎の疑問から話が始まります・

現在、美大の油絵科の中では作品の”コンセプト”が重視される傾向があり、現代アートを制作することが多くなっています。

それはこの作品を”なぜ作るのか””何を意味しているのか”について深く考えさせられ、教える教授もそれを審査の重きお置いています。

これは実際に美大生の油絵科の卒業制作を見るとわかるのですが、油絵を描いていない生徒が半数以上。

大学の作品の講評でも技術課題でなければ必ず作品の”コンセプト”を問われます。

そのため”現代”の美大では”現代アート”を学ぶことはある意味で必然ですね。

アートにコンセプトは必須?

7、8巻ではその現代アートって何?ということがテーマに描かれていました。

八虎も猫屋敷さんの江戸東京博物館の授業の中で現代アートへの理解とコンセプトについて学ぶことになりましたよね。

一方で、9巻では逆に具象的なベラスケスの絵に対して、「上手いだけの何がそんなにいいの?」と八虎が発言しています。

コンセプトの必要性については過去にこちらの記事でまとめました。

美術の歴史は革新の連続

美術の歴史を学ぶとわかるのですが、美術は常に革新の連続で現在に至っています。

はじめはあるものの説明のための壁画から始まり、

物語、宗教を伝えるための記録として

そして美化された貴族の肖像画を描き、

さらに、ありのままの庶民を描いた絵が生まれ、

見たままではない自分の心象の加わった、印象派が生まれる。

そして、現実のものとは全く関係のない抽象画が生まれ、

そして作品をのものよりもコンセプトが重視される現代アートが生まれ現在へ。

かなりざっくりとした説明ですが、こんな感じです。

このように常に少しずつ新しい価値観が生まれて現在に至っています。

どの時代の価値観が優れているとかではなく、現代のアートの文脈では現代アートの価値観が主流になっているという話です。

そのため、どれがアートではないかではなく、どれもアートということなんですよね。

音楽で例えるなら、クラシックと演歌とロック、ボーカロイドのどれが優れているの?という疑問に近いものがあります。

ジャンルの違いなので、どれが優れているというものではないんですよ。

この辺については下の本で分かりやすく書かれているのでオススメです!

現代では商業画家やイラストレーター系の作品を作る人はコンセプトより作品そのものを優先し、より現代アートととしての気質が高まるほどコンセプトを重視していますね。

ちなみに、日本の有名な現代アーティストを列挙します。

村上隆、草間彌生、奈良美智、宮島達夫、会田誠、名和晃平、塩田千春さんなどなど

この機会に現代アートについて調べてみると面白いですよ!

また、この機会にお近くの美術館に行って作品を見ましょう!

作品鑑賞の楽しみ方はこちらでまとめました。

美大の教授によっても作品の評価は大きく変わる

美大では教授自身の作風によってどの価値観を持つかが異なっています。

人それぞれ好みがあるので、明確にどれが良くてどれが悪いという作品は無いんです。

今回は猫屋敷先輩は現代アートがメインジャンルだったということで、八虎の作品を作るまでのプロセス、コンセプトを評価し、世田介くんのことはあまり評価していなかったという感じになっています。

八虎が7、8巻で現代アートを、9巻で古典絵画の理解を深めていくので、今後どのような作風に進むかは楽しみですね。

予想としては世田介くんとの対比でコンセプト系の現代アートに進むのではと思っています。

2年次に進級すると担当教授のゼミに入るので、世田介くんと八虎がどの教授につくかがたのしみです。

この流れだと八虎は猫屋敷、世田介君は廬生教授に行きそうですね。

八虎のお母さんは一般の世間目線。今何がテーマかを明確にしてくれている。

少し話がそれますが、八虎のお母さんの話をします・

八虎のお母さんは実は巻ごとのテーマを一般目線で話していて、要所で鍵になっていくのが僕のひそかな注目ポイント。

7巻ではお絵描き教室のアルバイトを八虎に勧めており、

8巻では、大理石に牛乳をこぼしたアートがよくわからない、自分でも作れるよ~と言っていて、

9巻ではベラスケスの絵を見入っていました。

9巻の今回は、日本で一般的に世間では現代アートよりもベラスケスのようなわかりやすい絵が好まれていることを、お母さんが象徴しています。

対して、八虎の美大で学ぶ現代アートとが対立されているようになっていますね

美大の話に没入しているところにお母さんがカットインして世間の視点に引き戻すので、そこで美大の閉ざされた特殊性や温度差を感じます。

今後も大事なポイントでお母さんのシーンが入ると思うので、注目してみてください。

世田介くんと猫屋敷教授の対立

この漫画でどのように対立されているか簡単にまとめてみました

世田介くん

・作家ではベラスケスに近い

・作品は堅実的。

・感覚よりも理論や見たままで作品を作ることが得意で職人気質。

・入試や8巻の江戸東京博物館での課題でそうみられる。
子どもの頃から絵がうまく、今回のモザイク画やフレスコ画でその技量が見られる

・身近な家族への承認欲求が強め?

猫屋敷さん

・感性で作品を作ることが得意。常に自分の好きなものを主軸に作品を制作している。

・作品のジャンルは現代アート

・SNSやメディアを意識するなどかなり今どきなタイプの作家

・作品第一主義。自分自身のプライドよりも作品への高いプライドを持つ。

・世間から自分の作品への承認欲求が強い

アーティストと承認欲求 誰かに認められたくて

猫屋敷さんは世間から認められたくて

世助介くんは家族や大学で認められたくて

悩んだり努力しているような感じになっていますね。

作家は作品を認められることは自分を認められることと同じ意味を持っています。

それは、自分の内面が作品に現れるためです。

そのため、逆に批判されるとメンタルに強いダメージを受けてしまいます。

なので、努力の方向性として、世田介君は作品制作の地道な努力を積み重ねていき、猫屋敷教授はメディアの広報や、表面的な人付き合いに注力。

同じ作家でも作品に対する姿勢の違いが9巻で現れていますね

僕も美大生で作品の講評の時にはいつも教授に何を言われるのかビクビクしていました(笑)

ちょっとした言葉でも寝付けなくなるほどイライラしたり悔しかった記憶が残っています。

今思うとものすごく純粋で、頑張っていました。

睡眠時間が毎日5時間ほどで片道1時間半の電車に乗り、12時間近くぶっ通しで作品制作。

そんな毎日です。

そんな日が1か月以上かけて作った作品をほんの数分で講評されて、その一言で気持ちが天国と地獄になりましたね。

大学を卒業するとそんな機会も少なくなるので懐かしいです。

好きなことと得意なこと

好きなことと、得意なことってすこし違いますよね。

世田介君は昔から絵がうまく、美術は得意なことでした。

一方、八虎たちは得意というよりは好きなことです。

昔から絵がうまかった世田介君はうまいがために、周りから認めほしくて絵を描いている節があります。

そのため、世田介君は絵が描けないと誰からも認められないという不安が、常に付きまとっている感じがしますね。

僕もどちらかというと世田介君タイプだったので気持ちが分かります。

ほとんど遊ばずにずっと大学にこもってひたすら制作ばかりしていました。

このタイプは職人気質で、狭く深く進んでいくタイプなのですが、欠点としてそれがうまくいかなかったときにメンタルがあやういことですね。

制作しか自分の人生に無いので、それを否定されると人生も全否定されたような気分になります。

とても共感できる展開だと思いました。

次の物語の展開として、このあたりの職人気質的な世田介君の過去やメンタルの克服についてが描かれていきそうです。

ちなみに「今でしょ!」の林修先生は得意なことで好きなこと、夢をかなえたと言っていました。

今どきのアーティストを象徴する猫屋敷教授

一方、猫屋敷さんは今どきのアーティストを象徴する人物としてこの漫画では描かれています。

SNSやメディアを駆使して、相手からどう見られるか、どうすれば作品を売り込めるかについて徹底しています。

最近ではTwitterやInstagramでバズることをきっかけに作家になる人も珍しくなく、

毎年、美大の卒業制作も誰かしらバズっています。

過去には機械式の手書き時計や、体が海中でできたクジラの群れの作品、赤ちゃんをあやす風神雷神像が記憶に新しいです。

そのため、SNSの存在は大きく、アーティストにとってはほぼ必須の仕事になりつつあります。

制作するものもSNSで人気のある作品に傾倒されている感じもありますね。

Twitterでは、キャッチーで面白いもの、見た目の美しさを追求したもの、リアルさや複雑さの技術を追求したものが人気。

SNSでバズらせることは作家になるための道の一つになりつつあるので、ここを目指した作品も増えています。

ここは時代の流れを感じますね。

SNS自体は無くなることが無く、利用者も増えるいっぽいうなので、この流れは加速していきそうです。

まとめ

受験絵画、現代アートに続き、古典絵画と八虎と学ぶことができるので、やっぱりブルーピリオドは面白いと思いました。

この漫画自体、綿密な取材のもとに制作されており、美大生の僕から見てもあるあるなことばかりです。

今後八虎がどのような作品を作る作家に成長するのかがとても楽しみです。

世田介君は立ち直れるのでしょうか。

次回作に期待します。

まだ読んでない人はぜひ読んでみてください!

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